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抵抗スペクトロスコピーによる半連続金属膜の形成ダイナミクス

金属薄膜を基板上に成膜すると、微小な孤立した島状の核が形成され、それらが成長して互いに接触することで連続膜が形成されます。この不連続から連続の変態は、金属では膜厚が数原子層の時に生じ、その途中で得られる半連続膜は絶縁体でも導体でもないユニークな電気特性を示します。我々は半連続膜の形成を高感度に検出できる計測手法を開発しました。この手法を我々は抵抗スペクトロスコピー(Resistive spectroscopy)と呼んでいます。この手法は、共振している圧電体を基板の近くに設置していると、不連続膜から連絡膜へと変化する瞬間に、圧電体が振動しなくなる現象を利用しています。これは、共振する圧電体からは周囲に電場が発生しており(図を参照)、その電場が薄膜によって乱されることが原因です。

図1 共振する圧電体が周囲に作り出す電場の様子

スペクトロスコピーとは周波数や波長を変えながら試料に刺激を与え、その中で観測される応答が最大(あるいは最小)になる周波数(波長)を探して、試料の特性を評価する手法です。つまり、横軸が周波数(波長)となるスペクトルを計測して物性評価を行います。これに対して、開発した手法では実験中に薄膜の電気抵抗が変化し、その中で圧電体の応答(減衰)にピークが現れます。つまり、横軸が薄膜の電気抵抗、縦軸が圧電体の応答(減衰)としたスペクトルにおいて、ピークが得られ、そこから薄膜の状態を評価します。このように電気抵抗を変えながら応答を計測する手法であることから、抵抗スペクトロスコピーと呼んでいます。

図2 一般的なスペクトロスコピー(左)と抵抗スペクトロスコピー(右)

圧電体の共振(音)で薄膜の形態変化を観察するユニークな手法であり、この計測法を用いてこれまで観察が難しかった成膜初期の薄膜成長ダイナミクスについて研究を行っています。また、半連続膜ではわずかな形態の変化が大きな電気抵抗変化を引き起こす可能性があります。この特徴は高感度なガス検出センサへの応用が考えられ、ガスセンサとしての半連続膜の適用可能性についても研究しています。

  1. N. Nakamura, K. Kashiuchi, and H. Ogi
    “Multi-mode resistive spectroscopy for precisely controlling morphology of extremely narrow gap palladium nanocluster array”
    Review of Scientific Instruments 92 (2021) 063901.  
  2. N. Nakamura, T. Ueno, and H. Ogi
    “Hydrogen-gas sensing at low concentrations using extremely narrow gap palladium nanoclusters prepared by resistive spectroscopy”
    Journal of Applied Physics 126 (2019) 225104.  
  3. N. Nakamura, T. Ueno, and H. Ogi
    “Precise control of hydrogen response of semicontinuous palladium film using piezoelectric resonance method”
    Applied Physics Letters 114 (2019) 201901.  
  4. N. Nakamura and H. Ogi
    “Resistive spectroscopy coupled with non-contacting oscillator for detecting discontinuous-continuous transition of metallic films”
    Applied Physics Letters 111 (2017) 101902.  
  5. N. Nakamura, N. Yoshimura, H. Ogi, and M. Hirao
    “Formation of continuous metallic film on quartz studied by noncontact resonant ultrasound spectroscopy”
    Journal of Applied Physics 118 (2015) 085302.