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外部振動によるコロイドガラスの結晶化

固体の研究では、原子ひとつひとつの振る舞いを知ることが必要な場合がありますが、固体中の原子の挙動を実験で観測することは容易ではありません。そこで、実験で測定・観測できない現象に対しては、コンピューターシミュレーションが使われます。しかし、コンピューターシミュレーションでは、計算コストの関係から取り扱うことのできる原子の数に限りがあります。結晶のような周期的な構造を有する材料に対しては、周期境界条件を用いることでこの問題を解決できますが、アモルファスのように不規則な構造を有する材料に対しては、このような手法を用いることが難しくなります。これは、ランダムな構造を再現する必要があるのに、周期境界条件を導入すると必ず周期性が発生するためです。このような問題を解決する手法としてコロイドを使った研究が注目されています。

コロイドとは

コロイドとはサイズがum~nmの微粒子を液体中に分散させたものです。我々の研究では1ミクロン程度のシリカ粒子を水溶液中に分散させたものを使用しています。この溶液内で、微粒子は規則的に配列したり、ランダムに分散したりします。微粒子の充填率を変化させると規則構造やランダム構造を作り出すことができ、この様子は実際の材料の相変態に似ています。このことから、微粒子を原子に見立てた、実験シミュレーションが行われています。

上の画像は、水溶液中のコロイドの様子を共焦点顕微鏡で観察した様子です。黒い粒がコロイド粒子(直径1.5ミクロン)です。溶液中に漂っている様子が分かります。

コロイドの特徴

コロイドでは一度に数十億個もの粒子からなる系を作り出すことができるため、周期境界条件を用いる必要がありません。この点が、コンピューターシミュレーションにはない重要な特徴です。「微粒子を使った実験では、原子間ポテンシャル(原子間に働く引力や斥力)を正確に再現することができないが、本当に原子の振る舞いを再現できるのか?」といった疑問が湧くかもしれません。しかしながら、驚くことに、実際の材料を使った実験と良く似た現象がコロイドでも多数、報告されています。つまり、コロイドが原子材料のモデルになり得るのです。このことは、固体の本質的な性質は、原子間力の強弱ではなく、その配列(構造)が重要であることを示唆しています。

原子系材料とコロイド(剛体球)のポテンシャル。両者の形は異なりますが、実際に起こる現象は良く似ています。

熱処理に替わるガラスの結晶化方法

この利点を生かして、我々はアモルファスに関する研究を行っています。最近の研究でアモルファスの結晶化が特定の周波数の外部振動によって急激に促進されることを発見しました。この結果は、実材料においては結晶化には熱処理は必要なく、超音波などを用いて結晶を局所的に生成することで結晶化を起こせることを示唆しています。従来は熱処理によって行われているナノ結晶材料の生成を、簡便な超音波照射に置き換えられる可能性もあります。

  1. N. Nakamura, S. Nakashima, and H. Ogi
    “Mechanical oscillation accelerating nucleation and nuclei growth in hard-sphere colloidal glass”
    Scientific Reports 9 (2019) 12836.
  2. N. Nakamura, K. Ianayama, T. Okuno, H. Ogi, and M. Hirao
    “Accelerated crystallization of colloidal glass by mechanical oscillation”
    Scientific Reports 7 (2017) 1369.